2014/06/05 堀川鮮魚ブログ

Nの市場徒然日記 その12 ~『海からの贈り物』の世界~

市場からお届けします。

6月になり、気温が一気に上昇しましたね~。皆様、体調にはくれぐれもお気をつけ下さい!

市場では初夏らしく、アユや石川産のカキが先月あたりから出始めていました。
そして、ついに新潟の山北産の岩牡蠣が始まりました!

 

これが出てくると、またあの暑い夏がやってくるとしみじみ思います。生のままでも、レモンをたらしてもおいしいですよね~。

さて、そんな夏の味覚である牡蠣ですが、Nのように食べることしか頭にない人もいれば、こんな見方をする人もいます。

 

 

        「牡蠣は確かに、結婚して何年かになる
         夫婦生活を表すのに適した貝のようである。
         そして、生きていく戦いそのものを思わせて」
                             (p.80)

 

 

…牡蠣をみて、そんなこと思いもしませんでした汗

 

こんなことをいっているのは、今回の本『海からの贈り物』の作者、アン・モロウ・リンドバーグです。「リンドバーグ」と聞くと、確か飛行機関係の偉業を成し遂げた人にそんな名前の人がいたようなと思っていました。その通りで、史上初の大西洋単独飛行の成功者、チャールズ・リンドバーグの奥さんなんです。しかも、ただの奥さんではなく、自分で飛行記録や書簡を発表している方なのです。この『海からの贈り物』もその1つ。彼女が浜辺で一人考えたことをまとめたものとなっています。

 

 

彼女に言わせれば、牡蠣は岩の上で自分の位置を守るために必死に戦っています。同じように夫婦も、社会の中で足場を固めるために戦っている。そこが彼女の中では共通しているようなのです。

また、この牡蠣の章の前に日の出貝の章があり、そこでも結婚について言っています。

 

 

…日の出貝って?と思いながら調べてみると、

 

 

 

なんと、以前買ってみたヒオウギ貝のことでした。本を読んでいる感じでは、ぴったりと重ね合わさることが言われていたので、てっきりハマグリかと思っていたNです。それで、そのぴったり重ね合わさることから、彼女が何を連想したかといいますと、「責任感を感じる前の恋愛の萌し」だそうです。

 

 

え?え?と思いながら読んでみると、日の出貝はただ楽しいだけの恋愛、牡蠣は世間の色々なことがついてまわるようになった夫婦関係になるのだと思います。確かに、高校生の時の恋愛と、夫婦になったあとの生活って、当たり前のようですけど、全然違いますよね~。

 

 

だからといって、彼女は「つまらないわ!」なんて、言っておらず、むしろ牡蠣が好きと言っています。「その見慣れた不格好な様子には、丁度、自分の手にしっくりと嵌るようになった古い庭仕事用の手袋にも似た親しみがあって」(p.83)と彼女は理由を書いていますが、皆様いかがでしょうか?

ちなみにこの後、たこぶねの章というものがあり、日の出貝→牡蠣→たこぶね、という順に人間関係についての彼女の考えが述べられていきます。ちなみにたこぶねはアンモナイトの化石みたいなものです)。

 

ここに出した貝以外にも章があり、彼女は考えを述べています。興味のある方は是非読んでみてください。蛇足ですが、このアン・モロウ・リンドバーグという人、なかなか大変な人生を送った人のようです。その経歴をみたあとに、一人で浜辺で過ごし、貝を並べながら考えるこの人のことを想うと、何ともいえない気分になります。そして、改めて牡蠣をみると、牡蠣に誇らしささえ感じてしまいます。静かに、守るために戦っているんだなぁって思うんですよね…。

 

 

ぁ、この夏もおいしくいただきますがね!

 

 

 

以上、市場からでした!

 

参考文献

アン・モロウ・リンドバーグ(吉田健一訳)、『海からの贈り物』(改版)、新潮社、1967年。

 

 

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